大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所 昭和56年(行ウ)16号 判決 1983年12月27日

原告

あけぼのタクシー有限会社

右代表者

瓜生哲也

右訴訟代理人

苑田美殼

山口定男

立川康彦

被告

福岡県地方労働委員会

右代表者会長

三苫夏雄

右指定代理人

岩崎光次

外五名

参加人

あけぼのタクシー労働組合

右代表者執行委員長

中島九州男

参加人

中島九州男

参加人

横田重信

右参加人ら訴訟代理人

津田聴夫

田中久敏

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

被告が福岡労委昭和五三年(不)第二四号、昭和五四年(不)第二五号不当労働行為救済申立事件について昭和五六年六月二三日付でなした命令のうち主文1項を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、タクシー業を営む会社であり、参加人中島、同横田は、自動車運転手として原告に雇われていたものである。

2  原告は、参加人中島を、(1)昭和五三年三月一六日付、(2)同月一九日付、(3)同月二六日付、(4)同年四月二三日付、(5)同年六月二日付で参加人横田を、(1)昭和五三年三月一八日付、(2)同月二〇日付、(3)同年四月二二日付で、各出勤停止処分に付した。

3  参加人あけぼのタクシー労働組合(以下「参加人組合」という。)は、右各出勤停止処分が不当労働行為に当たるとして、原告を相手どり被告に対しその救済の申立てをした(昭和五三年(不)第二四号不当労働行為救済申立事件)。

4  被告は、右事件を昭和五三年(不)第二五号不当労働行為救済申立事件と併合して審理し、昭和五六年六月二三日付で、別紙命令書(命令書末尾にある付記部分を除く。)のとおりの命令(以下「本件命令」という。)を発し、同命令書の写しは同年七月二一日原告に送達された。

5  本件命令の主文1項には次のとおり前提とした事実の認定及び法律上の判断に誤りがあり、違法である。

(一) 原告のなした本件各出勤停止処分はいずれも正当な理由があり、被告の判定しているような労働組合法七条一号に定める不利益取扱いであると認められる余地はなく、これを不利益取扱いとした判断は重大なる事実誤認である。

<中略>

(二) 本件命令の主文の違法について

(1) 被告の本件命令の主文1項には、参加人横田に対する昭和五三年三月二六日付、同年四月二六日付各出勤停止処分を撤回し、処分がなければ受けるはずであつた賃金相当額を支払わなければならない旨記載されているが、これは参加人組合が申立てをしていない事実について架空の事実をどつち上げて、架空の出勤停止処分を撤回せよと命じ、更に、その処分がなければ受けるはずであつた賃金相当額を支払えというものである。

そもそも、労働組合法に定める不当労働行為については、地方労働委員会(以下「地労委」という。)自らが職権で調査審問を行う権限はない。必ず、労働組合法二七条一項に定めるように、使用者が労働組合法七条の規定に違反した旨申立てを受けたときに限つて審問を行い、命令を下すことができるものである。

被告は、参加人組合が申し立てたものでなく、かつ、自ら証拠によつて認定したものでもない架空の右各出勤停止処分を撤回せよと命じたものであつて、これは単なる事実誤認ですまされることではなく、本件命令の違法は明白であるから取り消されるべきである。

(2) 被告は、後日これを明白な誤記であつたとして別紙命令書末尾の付記部分のとおり訂正しているが、その訂正は無効である。

右付記は本件命令が発せられた昭和五六年六月二三日から約四か月を経過した同年一〇月三〇日に至つて行われたものであるが、その間原告は同年八月一四日に本件命令の取消しを求めて本訴を提起し、被告もこれに応訴して同年九月八日に原告の請求の棄却を求める答弁書を提出し同月二一日に第一回口頭弁論期日が開かれ、更に被告は同月三〇日本件命令の主文2項(2)につき緊急命令を申し立て、原告も同年一〇月五日付で右申立てに対する意見書を提出するなど、原告と被告の間の本件命令をめぐる法律関係は大きく変動しており、被告が本件命令主文を誤記という口実の下にこれを訂正することはできる余地のないものとなつているのである。

(三) 本件救済命令申立事件の審査手続の違法について

被告が本件救済命令申立事件を審理するに当たり、計一六回の審問期日が開かれたが、この期日のすべてについて使用者委員は全く出席していないし、審問の組結に当たつて、被告は使用者委員の意見を聞いていない。

地労委の委員は非常勤の特別職であるので、個人的事情で審問に出席できない場合も考えられるが、長期間にわたり特定の委員が恒常的に欠席する異常な状況は、地労委の三者構成の制度本来の目的から、到底許容できるものではない。

原告は審問において当然に享受すべき使用者委員の支援を受けることなく、公正な審問を受ける権利を剥奪されたもので、本件命令は違法な審査手続によつてなされたものであり、取り消されるべきである。

6  よつて、本件命令のうち主文1項の取消しを求める。

二  請求原因に対する被告の答弁及び主張

1  請求原因1ないし4の各事実は認める。

2  同5の主張は争う。

3  被告が本件命令において参加人中島、同横田に対する各出勤停止処分を不当労働行為と認定した理由は別紙命令書(命令書末尾にある付記部分を含む。)のうちの同参加人らに関係する部分記載のとおりであり、請求原因5の(二)、(三)の主張に対する反論は次のとおりである。

(一) 命令書の誤記について

そもそも労働委員会の命令は、申立人の請求にかかる救済に理由があるかないかを判定する前提として、当該救済申立てにかかる不当労働行為を構成する事実を認定することが必要であり(労働委員会規則四三条二項四号)、右認定した事実のみが判断の対象となり、これに基づく判断及び法律上の根拠を示し、その結論部分を主文に掲記するものである。したがつて、認定されていない事実が主文に掲記されているなど命令書の記載の全趣旨からみて明白な誤りであることが看取できるときは、当該誤記部分はもともと労働委員会の判断の対象となつていない部分であつて、当該部分を命令書から削除したからといつて命令そのものの効力に影響を及ぼすものではない。被告委員会は、原告の参加人横田に対する昭和五三年三月二六日付の出勤停止処分を事実としては認定せず、また、判断及び法律上の根拠の中でも右の点については触れていないにもかかわらず、主文では同人に対する同日付の出勤停止処分の撤回を命じたのであるから、右主文は命令書の記載自体から明白な誤りであることが明らかである。また、被告は、「認定した事実」の中で同参加人に対する昭和五三年四月二二日付の出勤停止処分を認定しながら「判断及び法律上の根拠」の中でこの部分を転記する際に四月二六日と誤認したため、主文においても昭和五三年四月二六日付の出勤停止処分を命ずるとの誤つた記載をなしたものである。

これらの誤りは命令書作成過程における明白なる誤記であることは、命令書の全趣旨からみて容易に看取しうるもので、命令書判定の基礎となるべき認定した事実については、何らの誤記もなく、命令主文1項中の「(3)同年三月二六日付」を削除し、また、「(4)同年四月二六日付」を「(3)同年四月二二日付」に訂正したからといつて、前記のようにもともと誤記の部分を主文から削除・訂正しただけのことであつて、本件命令そのものの効力には何ら影響を与えるものではなく、原告の主張は失当である。

そして、被告委員会は、前記趣旨に基づき、訂正を行いその旨を当事者に通知した。

(二) 使用者委員が不当労働行為事件の審問に欠席したことについて

(1) 労働組合法二四条によれば、審問は公益委員のみが参与して行うものであり、ただ使用者委員及び労働者委員(以下「労使の委員」という。)がこれに参与することを妨げないと規定し、また、労働委員会規則三九条四項では、審問に参与しようとする労使の委員はあらかじめ会長にそのことを申し出るものとすると規定し、右申出の後、実際の審問に参与した委員は、労働委員会規則四〇条九項に基づき会長に告げて当事者に問を発し、又は証人を審問することができると規定されているのみであつて、参与を申し出た委員は必ずしも審問期日に出頭して参与すべき法令上の義務はない。そして、労使の委員より右申出を受けた会長は、その申出を受けるのみであつて、これに対し特に許可したりあるいは承認したり、また、反対にこれを拒否したりするものではない。

したがつて、参与を申し出た委員が、実際の審問にあたつてこれに出席せず、審問に参与しなかつたとしても、そのことにより審問手続が違法となることはなく、また、会長がこれに対し出席を促すなどの特別の措置をとらなかつたとしても、そのことのゆえに審問手続が違法なものとなるということはできない。

(2) 被告委員会における不当労働行為事件の審査の具体的処理は、昭和四八年八月二一日における「不当労働行為事件の審査に関する申合せ」に従つて行われている。この申合せは、公益委員会議の決議に基づき、公・労・使の三者構成の同日の第六九四回定例総会において承認されたものである。この申合せ一六項によれば、参与委員の意見の陳述は、当事者の最後陳述後二週間以内に口頭又は書面によつて行うことになつている。この趣旨は、審査促進の観点から参与委員の意見の陳述を当事者の最後陳述二週間以内に行うことを規定するものであるが、事件によつては結審から合議までに相当長期間を要する場合もあり、このような場合には、二週間に限定することなく、合議までの間に適宜意見の陳述を求めているのが実状である。

本件の場合、結審から合議までの間に数か月の期間を経過しており、その間において被告委員会会議室で定例総会その他の機会に審査委員と参与委員が度々会合した際、審査委員は本件審査に関し、参与委員の意見を口頭により聴取した。公益委員会議は、これら意見を総合勘案し、合議の結果本件命令に至つたものである。もつとも、これについては、公文書による記録がないので、現時点においてはその日時を特定することは困難である。

本件における参与委員の意見聴取の方法は、厳密には労働委員会規則四二条二項の規定どおりではない点があるとしても、右規定の目的とするところは、労働委員会の三者構成としての建前から、審問に参与した労使の委員の意見を尊重し、これを合議に反映させようとするものであるから、本件における前記措置もこの趣旨に反するものではない。

仮に、本件における参与委員の意見聴取が、労働委員会規則四二条二項のそれに該当しないとしても、使用者の行為が労働組合法七条の規定に違反したか否かの決定は、公益委員の専権事項であり(労働組合法二四条)、合議に先立つて参与委員の意見を聴取することは、労働委員会の三者構成の建前からする一種の訓示規定と解すべきであつて、しかもこの場合、参与委員は意見を陳述しなければならないものでもないことを考えれば、このことにより、本件命令の効力が否定されるべきものでないことはいうまでもない。

三  参加人らの主張<以下、省略>

理由

一請求原因1ないし4の各事実は当事者間に争いがない。

二不当労働行為の成否について判断する。

1  参加人組合と参加人中島、同横田の活動

<証拠>を総合すれば、参加人組合は、昭和四四年四月結成され、同年七月全国自動車交通労働組合に加盟していること、参加人中島は、昭和五一年ころから参加人組合の執行委員長を、参加人横田は、書記長をし、ともに活発な組合活動を行い、原告会社や当時原告会社内に存在していた非組合員の親睦団体である運友会とことごとく対立し、紛争が生じていたことが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  参加人中島、同横田に対する懲戒解雇と両名の職場復帰

<証拠>を総合すれば次の事実が認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

昭和五一年八月二一日、原告会社は、参加人中島、同横田を懲戒解雇にした。この解雇に対し参加人組合は、被告に対し不当労働行為の救済申立てをなし、昭和五二年一二月五日被告が参加人中島、同横田の原職復帰その他を内容とする救済命令(福岡労委昭和五一年(不)第二三号)を発したところ、原告が福岡地方裁判所に救済命令の取消訴訟(福岡地方裁判所昭和五三年(行ウ)第一号)に及んだので、被告は、緊急命令の申立てをなした。同裁判所は、昭和五三年三月一三日右申立てを認容し、原職復帰を命じる決定(福岡地方裁判所昭和五三年(行ク)第二号)をなし、これにより翌三月一四日から参加人中島、同横田が運転手として職場復帰することとなつた。

3  本件各出勤停止処分

(一)  参加人中島に対する昭和五三年三月一六日付、同月一九日付、参加人横田に対する同月一八日付、同月二〇日付各出勤停止処分

<証拠>を総合すれば次の事実が認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

昭和五三年三月一六日、原告会社は、参加人中島、同横田に対し、就業規則に定めてある従業員より提出させる誓約書の表現が旧弊なためその表現を改めて新様式の誓約書を制定したこと、参加人中島、同横田以外の従業員は皆既に提出していることを説明して、新様式の誓約書の提出を命じた。これに対し、参加人中島、同横田は、緊急命令は解雇以前と同一の状態に戻すのがその趣旨であつて、新様式の誓約書を提出することが条件となるのはおかしいこと、採用時に誓約書を提出していること、同参加人ら以外の者全員が提出しているかどうか確認させてくれるよう原告会社に求めたが拒絶されたことなどを理由に誓約書の提出を拒否した。原告会社は、なおも新様式の誓約書の提出を命じたが、その際就業規則を守る意思があるのかと詰問したところ、参加人中島、同横田は、「守れることと守れんことがある。」旨答えた。

原告会社は、参加人中島、同横田が誓約書の提出を拒否したこと、同参加人らが就業規則に従わない旨発言したことを理由として、参加人中島に対し三月一六日、同月一九日の両日、参加人横田に対し同月一八日、同月二〇日の両日各出勤停止処分に付した。ただし、参加人横田は、同月一八日は自己の都合で欠勤した。

(二)  参加人中島に対する昭和五三年三月二六日付出勤停止処分

<証拠>を総合すれば次の事実が認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

昭和五一年五月運友会が結成されて以後、参加人組合と運友会とは対立し、参加人組合が運友会員を暴力団まがいの連中と記載したビラを配付したことがあつた。

この組合ビラについて、元運友会会長大溝義夫(本件当時あけぼの会会長)は、職場復帰した参加人中島、同横田に対し謝罪を求め抗議を重ねたが、昭和五三年三月二六日大溝の抗議のなかに、福岡地方裁判所昭和五三年(行ウ)第一号不当労働行為救済命令取消請求事件における「金バッチうんぬん(暴力団のこと)」との参加人横田の発言も引用されていたことから、参加人中島は、裁判所での発言を大溝が知るわけはないのだから、同人と原告会社がグルになつて参加人中島の出庫を妨害している旨発言した。

同日、原告会社が参加人中島に対し右発言の取消しを求めたところ、同参加人は、発言自体は認めたものの、語気強くそれが事実である旨主張して取消しを拒否した。

原告会社は、参加人中島に対し、同参加人の発言は会社を罵倒したものであるとして同日、出勤停止処分に付した。

(三)  参加人中島に対する昭和五三年四月二三日付、参加人横田に対する同月二二日付各出勤停止処分

<証拠>を総合すれば次の事実が認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

原告会社は、一従業員の妻から「組合員が深夜に家庭訪問し、主人に組合に加入するよう勧誘して迷惑しているので、会社は何らかの措置をとられたい。」との申入れがあつたとして、参加人中島に対しては昭和五三年四月二三日同横田に対しては同月二二日、「組合運動をするなというのではないが、常識と秩序を守つて行われたい。」旨注意した。これに対し同参加人らは、「家庭訪問することについて会社からとやかくいわれる筋合いのものではないので、今後も正々常々と行う。」旨答えた。

原告会社は、参加人中島、同横田の右発言は自分のみが正しく会社が悪いと誹謗したものであるとして、参加人中島に対しては、四月二三日、同横田に対しては四月二二日出勤停止処分に付した。

(四)  参加人中島に対する昭和五三年六月二日付出勤停止処分

<証拠>を総合すれば次の事実が認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

昭和五三年六月二日、原告会社は、参加人中島が同年五月三〇日福岡市千早の国道三号線上のユーターン禁止帯で転回したとして詰問したのに対し、同参加人は、これを否認し、デッチ上げだとして抗議した。

原告会社は、参加人中島に対し、同参加人の右発言は暴言を吐き、職務上の注意を聞こうとせず、上司に反抗的態度に出たものであるとして、同日、出勤停止処分に付した。

4  本件各出勤停止処分の不当労働行為該当性についての判断

(一)  参加人中島に対する昭和五三年三月一六日付、同月一九日付、参加人横田に対する同月一八日付、同月二〇日付各出勤停止処分

原告会社が新様式の誓約書の提出を命じた三月一六日は、参加人中島、同横田が緊急命令により職場復帰し、再びタクシー乗務が可能となつた初日であつて、同参加人らが新様式の誓約書の提出を拒否し、原告会社に反抗する態度をとつても、原告会社は更に日時をかけて説得すべきであつて、直ちに出勤停止処分としたことは合理的理由がなく、行き過ぎであると考えられる。

また、原告は、参加人中島、同横田が就業規則に従わない旨発言したことをも処分理由として主張するところ、参加人中島、同横田が就業規則につき「守れることと守れんことがある。」旨発言したことは前記3(一)で認定したとおりであるが、同認定の事実経過に照らすと、右発言は、新様式の誓約書の提出をめぐつての原告会社と参加人中島、同横田とのやりとりの際での発言であつて、原告会社から就業規則のどの条項が守れないのかなどの反問がなされなかつたことをも考えると、売り言葉に買い言葉としての面が強く、就業規則に従わない意思を真実表明したものとみることは相当ではないから、これも出勤停止処分の合理的理由となるものではなく、行き過ぎであると考えられる。

(二)  参加人中島に対する昭和五三年三月二六日付出勤停止処分

本件は前記3(二)で認定したとおり元運友会会長大溝義夫との間にトラブルが起つたことに端を発しているものであつて、参加人中島の原告会社と大溝がグルであるとの発言には問題がないとは言えないが、右発言はあくまでも参加人組合と運友会(現あけぼの会)との対立状況の中での参加人中島と大溝との間の発言であつて、直接原告会社に向けられたものではなく、原告会社がこの発言を問題にして参加人中島に取消しを求め、同参加人がこれを拒否するや出勤停止処分としたのは合理的理由がなく行き過ぎであると考えられる。

また、原告は、参加人中島の発言は原告会社を罵倒したものであると主張するが、前記3(二)で認定したとおりの参加人中島の発言からは、たとえ語気強く言つたものとしても原告会社を罵倒したものと判断することは困難であつて原告の主張は理由がない。

(三)  参加人中島に対する昭和五三年四月二三日付、参加人横田に対する同月二二日付各出勤停止処分

本件は参加人らの組合活動に対し原告会社が「常識と秩序を守つて行われたい。」旨注意したところ、参加人中島がこれを拒否したことがその理由となつている。思うに、組合活動といえども常識と秩序を守つて行われるべきであることは当然なことであるが、原告会社ときびしい対立状況にあつた同参加人らに対しことさらに原告会社が右のような注意をするのは組合運動に対する不当な介入であると疑われるような言動といわざるをえないし、「今後も正々堂々と行う。」旨答えた同参加人らの発言をとらえて、参加人中島、同横田を出勤停止処分としたことは合理的理由がないものというべきである。

(四)  参加人中島に対する昭和五三年六月二日付出勤停止処分

本件は参加人中島が昭和五三年五月三〇日福岡市千早の国道三号線上のユーターン禁止帯で転回したということがその前提となつているところ、<証拠>によれば営業課長黒岩勇夫と従業員一名が目撃した旨供述しているが、具体的内容に乏しく、参加人中島本人尋問の結果に照らして信用できず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

以上のとおり、本件各出勤停止処分はいずれも合理的理由に乏しいこと及び前記二の1、2で認定した事情を合せ考慮すると、参加人中島、同横田に対する本件各出勤停止処分は緊急命令により職場復帰した参加人中島、同横田の組合活動を嫌悪しこれを理由としてなされた労働組合法七条一号の不利益取扱いに該当する不当労働行為であると判断することが相当である。

三原告は本件命令の主文1項には参加人組合が申立てをしていない事実が含まれており、本件命令自体が違法であると主張するので、この点について判断する。

本件命令書の記載によれば、主文1項において参加人横田に対する昭和五三年三月二六日付、同年四月二六日付各出勤停止処分を撤回し、処分がなければ受けるはずであつた賃金相当額を支払わなければならない旨記載されていること、原告会社は右各日付で参加人横田に対し出勤停止処分をしたことはなく、参加人組合も右各日付の出勤停止処分について被告に救済の申立てをしていないことも原告主張のとおりである。原告会社は参加人横田に対し昭和五三年三月一八日付、同月二〇日付、同年四月二二日付で各出勤停止処分とし、参加人組合はこれに対して被告に救済の申立てをしたことは<証拠>により明らかであり、本件命令は理由において右各出勤停止処分の事実について認定し不当労働行為と判断しているものであつて、昭和五三年三月二六日付処分は全く存在しておらず判断の対象にもなつてないのであるから主文を作成するときに誤記したものと推認され、昭和五三年四月二六日付処分は、本件命令書の記載からみて参加人横田に対する四月二二日付処分を誤記したものと推認され、ともに本件命令書の全趣旨から判断して明白な誤りであるというべきである。

命令書に明白な誤りがある場合には労働委員会規則四三条三項に従い、地方労働委員会の会長はその旨を付記して訂正することができるところ、<証拠>を総合すれば、被告は、昭和五六年一〇月三〇日別紙命令書末尾記載の付記部分記載のとおり訂正し、その旨当事者に通知したことが認められる。

原告は右訂正は無効であると主張するので、この点について判断する。本件命令が発されてから右付記がなされるまでの四か月間の間に本訴提起、緊急命令申立てなど原告主張の事実があつたことは本件記録により認めることができるが、そもそも訂正は命令書に明白な誤りがあるときに限り許されるものであり、明白な誤りを訂正することはいつでもすることができるものと解するのが相当であるから、被告のした訂正は適法かつ有効であると判断され、原告の主張は理由がない。

四原告は本件救済命令申立事件の審査手続について全審問期日に使用者委員が出席していないこと、審問終結に当つて使用者委員の意見を聞いていないことを理由として、審査が違法であると主張するので、この点について判断する。

<証拠>によれば、原告主張のとおり本件全審問期日に使用者委員が欠席したことが認められ、本件全証拠によるも審問組結に当つて使用者委員の意見を聞いたことをうかがわせる記録上の記載を認めることができない。

思うに、労働組合法二四条は、「(不当労働行為)事件に関する処分には、公益委員のみが参与する。但し、決定に先立つて行われる審問に使用者委員及び労働者委員が参与することを妨げない。」と規定し、これを受けて労働委員会規則三九条四項は、「審問に参与する委員は、あらかじめ、会長に申し出るものとする。」、同規則四〇条九項は、「審問に参与した委員は、会長に告げて、当事者に問を発し、又は証人を尋問することができる。」、同規則四二条二項は、審問を終結した後の合議には、「公益委員会議は、合議にさきだつて、審問に参与した使用者委員及び労働者委員の出席を求め、その意見を聞かなければならない。ただし、出席がないときは、この限りでない。」と規定している。

右規定によれば使用者委員の審問への出席及び審問終結に当つての合議前の意見の聴取は労働委員会が公益、使用者、労働者の各委員からなる三者構成の機関であることから由来するところの重要な原則であると考えるべきであつて、単なる訓示規定に過ぎないものと解することは相当ではない。しかしながら労働委員会規則は使用者委員、労働者委員の出席及び意見の聴取が絶対必要なものとはしていないので出席の機会及び意見陳述の機会を全く与えていない場合には審査手続が違法なものとなるが、その機会を何らかの形で与えている場合には違法なものとはならないと解すべきである。

そこで本件についてみるに、<証拠>を総合すれば、被告委員会は審問を開くに当たり参与委員に何らかの方法で期日の通知をしていること、被告における不当労働行為事件の審査の具体的処理は、昭和四八年八月二一日付「不当労働行為事件の審査に関する申合せ」に従つて行うものとされていること、この申合せ一六項によれば「参与委員の意見は、当事者の最後陳述後二週間内に口頭又は書面によつて行う。」と規定されていること、結審から合議までに相当長期を要する場合には二週間に限定することなく合議までの間に適宜意見の陳述を求めているのが実情であること、本件の場合は結審から合議までの間に数か月の期間を経過しており、その間において被告委員会会議室で定例総会その他の機会に審査委員と参与委員が度々会合した際に、審査委員は参与委員の意見を口頭により聴取したことが認められる。

右事実によれば、使用者委員の審問への欠席は出席の機会を与えられていたものであるし、合議に先立つ意見の聴取も公益委員が相当と判断する方法で行つているものであるから、参与委員に全くその機会を与えなかつた場合とは異なり、本件命令に違法があつたものとは判断できず、原告の主張は理由がない。

五以上により、被告が本件各出勤停止処分が、労働組合法七条一号の不当労働行為を構成すると判断して発した本件命令には違法な点はなく、これを取り消すべき瑕疵は認められない。

六よつて、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条、九四条を適用して、主文のとおり判決する。

(辻忠雄 草野芳郎 松本光一郎)

命令書

申立人 あけぼのタクシー労働組合

執行委員長 中島 九州男

被申立人 あけぼのタクシー有限会社

代表取締役 瓜生 哲也

前記当事者間の福岡労委昭和五三年(不)第二四号及び同五四年(不)第二五号不当労働行為救済申立事件について、当委員会は、昭和五六年六月二三日公益委員会議において合議のうえ、次のとおり命令する。

主文

1 被申立人は、申立組合員中島九州男に対してなした(1)昭和五三年三月一六日付、(2)同年三月一九日付、(3)同年三月二六日付、(4)同年四月二三日付、(5)同年六月二日付各出勤停止処分及び同横田重信に対する(1)昭和五三年三月一八日付、(2)同年三月二〇日付、(3)同年三月二六日付、(4)同年四月二六日付各出勤停止処分を撤回し、このような処分がなかつたものとして取扱い、横田に対する(1)の分を除き、両名に対し同処分がなければ受けるはずであつた賃金相当額を支払わなければならない。<以下、省略>

理由《省略》

付記

1 命令書一ページ下から六行目の「(3)同年三月二六日付」を削除する。

2 命令書一ページ下から六行目の「(4)同年四月二六日付」を「(3)同年四月二二日付」と訂正する。

3 命令書二ぺージ上から一行目及び一五ページ下から二行目の「六日間」を「七日間」と訂正する。

4 命令書一三ページ下から三行目及び一五ページ上から四行目の「四月二六日」を「四月二二日」と訂正する。

5 命令書一六ページ下から九行目の「昭和五三年六月一八日」を「昭和五三年六月一六日」と訂正する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例